施工管理の仕事は本当に「きつい」のか?──働き方改革・DX・キャリアの選択肢から見る、変わりゆく施工管理の未来とは
記事まとめ(要約)
- 建設業は、2024年に時間外労働の上限規制が適用
- 建設業全体の離職率は10.5%
- 経験を活かせる人気の転職先は、【発注者支援】【不動産管理・ビルメンテナンス】【ディベロッパー】
- 建設DXや遠隔管理で「現場にいなくても回る」時代へ
「施工管理の仕事、正直きつい……」
毎日のように続く長時間労働、休みが取りづらい現場環境、急なトラブル対応。そして、体力的な限界や将来への不安を感じながらも、「せっかく積み上げてきた経験や資格をムダにしたくない」と踏ん張っている方も多いのではないでしょうか。
実際、施工管理は“過酷な仕事”というイメージを持たれがちですが、その一方で、近年は働き方改革や建設DXの推進により、現場を取り巻く環境が確実に変わり始めています。
本記事では、施工管理が「きつい」と言われる背景を改めて整理したうえで、今後の働き方の変化や、経験を活かしてキャリアチェンジするための具体的な選択肢について徹底解説します。
「施工管理=きつい仕事」は、もう過去の話かもしれません。

建キャリNEXT シニアコンサルタント
梶井 龍一郎
大学を卒業後、企画営業に従事
転職し20年以上人材業界に携わる。
現在は技術者をメインとしたキャリアサポートと人材教育を10年以上行っており、
累計6,000人以上の転職支援をサポートしている。
東京都出身、二児の父。
施工管理が「きつい」と言われる主な5つの要因
施工管理が「きつい」と言われる背景には、主に以下の5つの要因があります。これらが複合的に絡み合うことで、身体的・精神的な負担が大きくなり、多くの現場担当者が「仕事がきつい」と感じているのが実情です。実際の数字を出しながら解説をします。
1.長時間労働・残業が常態化している
施工管理職は、現場が稼働している時間に加えて、その前後の準備や後処理も求められるため、1日の拘束時間が10時間以上になることも珍しくありません。朝早くから出勤して段取りを確認し、夕方以降は翌日の工程調整や書類作成に追われることが多く、「定時に帰れる現場はほとんどない」という声も多く聞かれます。
とくに工期直前やトラブル対応時には、残業が月に45時間を超えることもあり、過労死ラインに接近するケースもあります。こうした過重労働が問題視され、労働基準法の改正により、建設業にも2024年から時間外労働の上限規制(原則月45時間、年360時間)が適用されるようになりました。
そのため、昨今では労務管理の強化や働き方改革に取り組む企業も増え、残業時間の削減や就業ルールの見直しが進みつつあります。ただし、現場の実情や人手不足などから、すべての現場で即座に改善が進んでいるとは言い切れず、まだ過渡期にあるといえるでしょう。
2.休日出勤・総労働時間の長さ
施工管理の仕事では、土曜日や祝日も現場が稼働しているケースが多く、完全週休二日制が確保されていない企業も少なくありません。特に民間工事や繁忙期の現場では、雨天や資材遅延などによる工程の遅れを取り戻すために、休日出勤を余儀なくされることもあります。
年間休日が100日未満という会社も存在し、公的データ上も建設業の年間休日数は全産業平均を下回っている傾向にあります。工期優先の風土が根強く残る現場では、「休みを取りづらい空気」が常態化しており、結果的にオンオフの切り替えが困難になりやすいです。
そのため、プライベートとの両立が難しく、家庭を持つ方や育児中の技術者にとっては大きな壁となっているのが現状です。働きながら家庭との時間を大切にしたいと考える人にとって、施工管理の就業環境は見直しを迫られるポイントとなるでしょう。
3.多岐にわたる業務内容
施工管理の仕事は、単なる現場監督にとどまらず、非常に幅広い業務を担う職種です。工程・品質・安全・原価という「4大管理」だけでなく、協力会社との打ち合わせ、施主との調整、近隣住民への対応、さらには役所関連の申請・報告書類の作成まで多岐にわたります。
さらに、現場では突発的なトラブル対応(例:資材遅延、人員欠勤、天候トラブルなど)が日常的に発生します。それに対応しつつ、パソコンやスマホでの事務処理も並行して行う必要があり、常に現場と内勤業務の両立が求められるのが特徴です。
このような環境では、「気を抜く暇がない」「常に何かに追われている」と感じやすく、精神的な負荷が蓄積されやすいのが現実です。責任の重さに加え、マルチタスクを強いられることによるプレッシャーが、施工管理職を“きつい仕事”と感じさせる大きな要因となっています。
4.睡眠不足・健康問題のリスク
夜勤や変則的なシフト勤務がある現場では、生活リズムが乱れやすく、睡眠不足や慢性疲労に悩まされる人も多いです。特に鉄道工事やインフラ改修などの工事は深夜に集中する傾向があり、深夜0時~朝5時まで働くことも。
交代制の勤務であっても、実際には翌日の会議や打ち合わせに参加しなければならないケースもあり、結果として「寝る時間がない」「休んでも回復しない」といった声が上がります。
その結果、健康診断で異常が出る、胃腸に不調を抱える、メンタル面で限界を感じてしまうなど、健康を理由に退職を検討する人も多くいます。
5.慢性的な人手不足と業務過多
建設業界は高齢化と若手不足により、人材が極端に偏った構造になっています。特に30~40代の中堅技術者は引く手あまたで、1人が2現場、3現場を兼任することもあります。
本来分担されるべき業務を、すべて1人で回さざるを得ない状況に陥り、結果として時間も体力も足りなくなり、業務が常に「後手」に回ってしまいます。このような悪循環は業務効率だけでなく、チームの士気や安全性にも悪影響を及ぼします。
さらに、人手不足の現場ほど離職率も高く、定着しない→引き継げない→属人化する→さらに辞めたくなる、という構造的な問題に直面しています。
施工管理経験者に知ってほしい──意外と低い建設業の離職率
「きつい・辞めたい」と言われがちな施工管理ですが、離職率という視点で見ると、意外に安定している現状があります。厚生労働省の公式データをもとに、建設業・施工管理の離職率を解説します。
1. 建設業の離職率は産業平均よりも低い
令和4年雇用動向調査結果によると、建設業全体の離職率は10.5%で、全産業平均の15.0%を下回っています 。
令和3年の9.3%という数値からも、建設業の離職率は比較的低水準で推移していることが分かります
2.「入職者よりも退職者が多い」構造的な人手不足も背景に
一方で同調査では、建設業の入職率は8.1%で、離職率を下回っており、新規入職者のほうが少ない構造的な人手不足が進行しています。
つまり、離職率が低い一方で「人が入らない → 経験者が辞めにくい」状態が続いており、業界全体として定着しやすい構造にもなっているわけです。
3. 離職率が低いからこそ「安定したキャリア形成」が可能
施工管理として実務を積んだ人材の場合、多くのケースで数年以上の在職を重ねており、キャリアの節目で計画的な転職やステップアップが可能になっています。
また、厚労省データから見える低離職率と人手不足のダブル背景により、転職市場で経験者の需要は非常に高いという追い風もあります。
施工管理経験を活かせる転職先
「現場を離れたい」「夜勤のない職場で働きたい」―そんな希望を叶えつつ、これまでの施工管理経験を確実に活かせる転職先は複数存在します。ここでは、特に人気の高い3つのキャリアパスをご紹介します。
1. 発注者支援業務(コンストラクション・マネジメント)
官公庁や大手企業の建設プロジェクトを、発注者の立場で管理・調整するのが「発注者支援業務(CM)」です。具体的には、工程管理やコスト管理、安全確認、図面チェックなどを中立の立場でサポートします。
多くの場合はオフィスワーク中心で夜勤なし・休日取得しやすい環境が整っており、体力的負担を抑えながら長期的に働ける点が魅力です。官公庁のインフラ整備や大学・病院の新築など、社会貢献性の高い案件に携わる機会もあります。
2. 不動産管理・ビルメンテナンス(PM/FM)
施工管理の経験は、建物の運用・保守・修繕を担う不動産管理業務(PM:プロパティマネジメント/FM:ファシリティマネジメント)にも活かすことができます。日常的な設備点検や修繕工事の企画・業者手配など、建物を“維持・管理”する立場で働くポジションです。
ビルオーナー側の立場で判断や提案を行えるため、主体性を発揮しやすく、また原則日勤・デスクワーク多めの働き方も実現しやすいです。ザイマックスや大和ライフネクスト、東急コミュニティーなどが代表的な企業です。
3. ディベロッパー(開発企画・工事監理)
マンションや商業施設などの開発企画・設計監理を担うディベロッパー業界では、施工現場の知識を持った人材が重宝されています。ゼネコン側で培った知見を、発注側・計画側として活用できる点が大きな魅力です。
工事監理担当として、設計事務所や施工会社との調整・監督を行い、品質や納期をコントロールします。現場には定期的に出向くものの、基本は計画・監理が中心の業務であり、労働時間も安定している企業が多いです。
三井不動産・住友不動産・野村不動産などの大手から、地域密着型のディベロッパーまで、求人の幅も広がっています。
これからの施工管理はもっと良くなる。変わりゆく働き方の未来
「施工管理はきつい」「人がいない」「もう続けられない」そういった声が多い中で、業界全体では着実に変化が始まっています。
1. 働き方改革と法改正が環境改善を後押し
2024年に建設業にも適用された時間外労働の上限規制は、企業にとって明確な“改善の義務”を突きつけました。これにより、長時間労働を前提とした現場運営が見直され、労働環境の整備が急速に進んでいます。
中には、週休2日制の完全導入や残業ゼロを実現した企業も現れはじめ、従来の“ブラック”なイメージを払拭しようという動きが強まっています。
2. 建設DXや遠隔管理で「現場にいなくても回る」時代へ
ドローンや360度カメラ、クラウド施工管理ツールの普及により、現場に毎日張りつく必要がなくなってきています。また、ANDPADやSPIDERPLUSのような施工管理アプリの導入も進み、現場の「見える化」や「効率化」が急速に浸透しています。
これらの技術は、若手や女性、ベテランの再雇用にも追い風となり、柔軟な働き方の選択肢を広げています。
3. 働き方の多様化と“選べる施工管理”の時代へ
夜勤中心・土日出勤ありの現場がある一方で、「夜勤なし」「週休2日」「地域限定」など条件を絞って働ける環境も増えています。
また、発注者支援・不動産管理・BIM・施設保全といった分野でも施工管理経験者は高く評価されており、これまでよりも“選べるキャリア”が確実に広がっています。
まとめ・総括
施工管理という仕事は、確かにハードな一面があります。長時間労働、休日出勤、夜勤、膨大な業務量……。その中で「辞めたい」「続けられない」と感じるのは、転職面談でよく聞く理由です。
しかし一方で、働き方改革・法改正・建設DXなどの追い風により、施工管理の働き方は確実に変わり始めています。
夜勤なし・残業少なめの現場、発注者支援や不動産管理、ディベロッパーなど多彩な転職先も広がっており、「きつい環境から抜け出したい」「でも経験は活かしたい」と考える方にとって、いまはまさにチャンスの時期です。
これまで築いてきた経験や資格は、無駄にはなりません。あなたのキャリアは、“もっと良くなる”方向へ確実にシフトできます。
だからこそ、もう一度伝えたいのは──
「施工管理=きつい仕事」はもう過去の話かと思います。
いまの自分にとって無理のない働き方を選び、経験を活かしながら、未来のキャリアを築いていきましょう。